【映画】瀕死の渡辺謙と迷子になりながら妻を想う「追憶の森」

この記事を読むのに必要な時間は約 9 分です。

久し振りに映画三昧な休日を過ごしているシカコです。
この連休でIMAXやMX4D、プレミアムシートを初体験してきましたが最新技術に感激するばかり。
今回は通常上映で鑑賞した『追憶の森』についてのレビューです!

追憶の森

前半はネタバレなし、後半でネタバレを含む感想とパンフレットについてです。

追憶の森(2015年 アメリカ製作)


監督:ガス・ヴァン・サント
出演者:マシュー・マコノヒー(アーサー・ブレナン)
    渡辺謙(ナカムラ・タクミ)
    ナオミ・ワッツ(ジョーン・ブレナン)
ジャンル:ミステリー

あらすじ


アメリカ人男性のアーサー・ブレナンは富士の樹海『青木ヶ原』へ訪れ、そこを死に場所にしようと彷徨っていた。
森の奥深くでゆっくりと命を絶とうとする彼の目の前に、傷だらけの日本人男性——ナカムラ・タクミが現れる。
「死にたくない。家族に会いたい」と懇願するタクミを無視することができなかったアーサーは、彼と一緒に森の外へ続く道を目指した。
しかしあるはずの道は見付からない・・・歩き続ける二人は崖からの転落や突然の豪雨、凍てつく寒さに襲われ体力を消耗していった。

死にかけながら、死に場所を求めて訪れていながら、彼らは死の森の出口を目指して歩き続ける。


作品の個人的評価(90点)


・死生観が絡んだ、神秘的な意味合いの強いミステリー映画
・静かな映画を観たいときにオススメ
・小出しにされていったネタが最後にはストンと胸に収まるのが◎
・渡辺謙が弱々しいとすごく不安になる
・終盤で主人公が浮かべる表情がGOOD

ネタバレなし感想


最後まで観てスピリチュアルな映画だなぁと思いました。
ミステリーと聞いて思い描く推理要素はなく、怪奇かつ神秘的な意味合いの方向性が強いです。

劇中はほとんど森、ちょっとアメリカ、森、森、そして森。
アメリカ人男性が手ぶらでふらぁ〜っと日本へ飛んで淡々と青木ヶ原の樹海を進む様子は、とにかく不安しか感じません。
というかアーサーを樹海の駐車場に降ろす前に、タクシーの運転手さんはなにか言おうよ!
山登りに来たとは到底思えない恰好をしたアメリカ人が一人で青木ヶ原樹海を訪れるだなんて、怪しすぎるでしょうが! 案の定死にきてるし!

日本にとって青木ヶ原の樹海は(俗っぽい表現ですが)自殺の名所という印象が強いけれど、日本国外でもそういったイメージがあるんでしょうか?
その点に少し違和感を持ったのですが、アーサーが青木ヶ原を選んだ動機というかきっかけがきっかけだったし・・・あまり突っ込まないほうがいいのかな。

空気が澄んでいるのを通り越して、寒気さえ覚えるような樹海の世界。いやぁ〜すごい!
近道をしようと雑木林に入って1時間くらい彷徨った記憶が甦りました。
日中でも薄暗いですけど、日没後って本当に真っ暗ですもんね。森本当怖い。
しかもロープが巻き付けられた樹々や誰かの落とし物、そしてこの世を去った亡き骸がとにかく不気味。
樹海という未知の世界に恐怖を抱きつつも、自然の神秘や美しさを感じられる不思議な雰囲気でした。

ストーリーのテンポは『渡辺謙と樹海を彷徨う現在』と『アーサーが樹海へ来た理由となる過去』を交互に繰り返しているためか非常にゆっくり。
森の出口を目指して外側へ目指して進むなか、ストーリーはどんどんとアーサーの記憶・感情・精神といった内面の奥深くへ進んでいきます。
小出しにされるパズルのピースを集めて当てはめていくようなストーリー展開です。
内容が内容のためかじわじわと精神に負荷をかけ続けられるのが少しストレス。
瞬間的な衝撃はあるものの、物語の起伏は全体的におとなしめで静かな映画という印象でした。

ラストはそれまでに抱いた違和感や精神的負荷をゆっくりと浄化させるカタルシスを感じられます。
物語としてはありがちな内容とも思えますが演出や描き方が非常に丁寧で、マコノヒーと渡辺謙の『生にしがみつく演技』からは目が離せません。
とくにマコノヒーの感情表現がもう、もう素晴らしいの一言!

サバイバルストーリーでありラブストーリーでもあり、そしてヒューマンドラマでもある・・・深いメッセージが込められた映画でした。







シカコ



以下ネタバレを含む感想になります。





長く付き合っているからこそ愛情も複雑になる


ジョーンは上昇志向が強く仕事もできる女性で、夫アーサーよりも稼ぎが良い。
対してアーサーは年収2万ドルの非常勤講師という現状で満足して(または諦めて)いる。
そんな彼の傍にいるからこそ、ジョーンは上昇志向が強くなったのかもしれない。

三年前のアーサーの浮気以来、素直に愛し合うことができなくなった二人。
もどかしさや苛立たしさから衝突しあい、声を荒げてお互いを傷付け合う毎日。
特にジョーンは過去の浮気を引き合いにアーサーを責めることで自己嫌悪に陥り、いつもアルコールに手が伸びてしまう・・・。
見ていて本当に痛々しく、とても苦しい気持ちにさせられます。

ジョーンの闘病生活が始まってから二人は歩み寄り、二人の未来に希望さえ抱いた矢先でのジョーンの死。
病気や手術の失敗で死ぬならまだしも(嫌だけど)、術後の転院移動中での交通事故が死因だなんて遣る瀬なさすぎる。
「死ぬのは怖くない。ただ無機質な手術室で死にたくない」と語ったジョーンの言葉が、別の意味で胸に突き刺さった瞬間です。

ジョーンの葬儀後にアーサーが語る「彼女の自動車保険の更新日のような、大事そうなことは知っていたよ。だけど彼女の好きな色や好きな季節のことを知らなかったんだ」という言葉が、喪失感に追い討ちをかけます。

樹海に咲く花の妖精、タクミ


満身創痍で今にも死にそうな渡辺謙演じるタクミの存在が、本当に謎で本作品一のミステリー。
妻キイロや娘フユに会いたいと話すタクミには悪いけれど、娘はまだしも妻の名前ちょっと不自然だな?!とツッコまずにはいられない。
なによりストーリーが進んでアーサーとジョーンについて知る毎に、タクミの存在や言動にだんだんと違和感を抱いてしまう。
「水辺の近くは私の楽園」という言葉、お気に入りの映画の歌、『ヘンゼルとグレーテル』、蘭の花・・・ジョーンとタクミの共通点が増える度にタクミの存在に疑問を抱かずにはいられない。

タクミを迎えにいったアーサーが見付けた蘭の花も意味深。
それをアメリカへ持ち帰って、生前のジョーンと同じように色とりどりの蘭を育てるアーサーの姿が少し泣ける(蘭の持ち込みは大丈夫なのかな・・・と無粋にも心配してしまいました)。

タクミは青木ヶ原樹海を彷徨う霊的な存在だったのかなぁ。
謎です。でも謎だからこそ、そこがまた良いのかもしれない。

約100分間でたまったストレスがカタルシスを迎える瞬間


アメリカから帰国し、以前と同じ非常勤講師として教鞭をとるアーサーのもとへ訪れるひとりの男子生徒。
日本語をすこしだけ理解できる男子生徒が、アーサーの本に挟まれたメモに書かれた単語の意味を教える。

「キイロは色の名前(Yellow)で、フユは季節(Winter)のことですよ」。

タクミの妻キイロと娘フユの名前、再び・・・!
おかしいとは思っていたけども、まさかこういった形で拾ってくるなんて・・・と声にならない心の叫び声を上げました。

そして意味を聞いたアーサーが目を閉じて浮かべた噛み締める表情に、不覚にも心を奪われました。
嬉しそうな笑顔のなかに寂しさや悲しみも伺える表情を見て、なんてすごい俳優なんだと驚愕。







シカコ



やるじゃない、マシュー・マコノヒー!





ジョーンの好きな色は黄色で好きな季節は冬だと作中では明言されませんが、だからこそアーサーの少し嬉しそうで寂し気な表情が感慨深い。

ブレナン夫妻とMr.Childrenの『Heavenly Kiss』


劇中でとても切なくなったのがソファで居眠り中のジョーンを起こさないように、アーサーが靴と眼鏡を外してコートを掛けてあげるシーン。
眠る彼女の額にキスをしてその場を離れるのですが、ジョーンが目を覚まして顔を突き合わせたら口論になる始末。
「どうしてそうなるのかなぁ!」と非常にもどかしさを感じます。最早ストレスです。

個人的にブレナン夫妻にはMr.Childrenのシングル『口笛』のカップリング曲『Heavenly Kiss』がぴったりだなぁと思ってます。
もともとミスチルの楽曲の中でも大好きな一曲なんですが、桜井さんがとあるライブで「ある何かをきっかけに、ときめきや愛情の深さが蘇る曲」と紹介しており、二人の心境にも当てはまるなあと。
衝突しては自己嫌悪に陥り、罪の意識を抱きながら、ブレナン夫妻はたしかにお互いを深く愛し合っていたがゆえに心に響きます。

パンフレットの個人的満足度(25点)


値段:税込720円
サイズ:B5
ページ:28ページ(表紙裏表紙含む)

 作品紹介
 物語
 映画ライターの解説(2名)
◎マシュー・マコノヒーのインタビュー
 キャスト経歴
◎プロダクション・ノート
 スタッフ経歴
 他 劇中画像、撮影写真複数枚

全体的な内容としては可もなく不可もなく・・・。
公式ウェブサイトの内容とほとんど被っているので、購入満足度は低め。
というかウェブサイトの情報を紙媒体にしました! っていう感じです。
紙質もまあ可もなく不可もなくですが、せっかく美しい森林のシーンが多いのだから写真映えするような紙にすれば良かったのになあと少し残念に思ったり。

ただマシュー・マコノヒーのインタビューや、プロダクション・ノートがとても興味深い内容でした。
まあ両方とも公式ウェブサイトに全文載ってるんですけどね(笑)

おわりに


死を迎えるために訪れた場所での、終わりと再生の物語。
暗く重苦しい内容でありながら、鑑賞後は不思議と森のなかで風に吹かれているような気分になりました。

自殺というネガティブでありながら、とてつもなく強いエネルギーをもった感情を描いており、ある意味生命力に溢れた映画。
とくに舞台である青木ヶ原樹海は、ただの森ではなく富士山の麓に広がる樹海と知っているからこそ、なにか霊的な現象が起きるのかもしれないというイメージがそのまま作品の情景に映し出されるような感覚を味わいました。

ここまで受け手側の感性や捉え方、死生観や宗教観といった思想に委ねる作品も珍しいですよね。
今回は『追憶の森』という邦題も珍しくお気に入りです。

追憶の森 (PARCO CINEMA NOVEL SERIES)
クリス スパーリング 相田 冬二
パルコ
売り上げランキング: 33,541

口笛
口笛
posted with amazlet at 16.05.05
Mr.Children
トイズファクトリー (2000-01-13)
売り上げランキング: 74,000

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitter で

You Might Also Like

  • Comments ( 0 )
  • Trackbacks ( 2 )

No commented yet.

  1. […] 【映画】瀕死の渡辺謙と迷子になりながら妻を想う「追憶の森」 | SPOT NOTE …久し振りに映画三昧な休日を過ごしているシカコです。 この連休でIMAXやMX4D、プレミアムシートを初体験してきましたが最新技術に感激するばかり。 今回は通常上映で鑑賞した『追憶の森』についてのレビューです! 前半はネタバレなし、後半でネタバレを含む感想とパンフレットについてです。 追憶の森(2久し振りに映画三昧な休日を過ごしているシカコです。 この連休でIMAXやMX4D、プレミアムシートを初体… […]

  2. […] 落や突然の豪雨、凍てつく寒さに襲われ体力を消耗していった。 死にかけながら、死に場所を求めて訪れていながら、彼らは死の森の出口を目指して歩き続ける。 (SPOT NOTE BLOGより) […]

*