【映画】笑えるだけでは終わらない、タブーを踏み抜いた現代屈指のブラックコメディ『帰ってきたヒトラー』

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

TOHOシネマズのシネマイレージ会員は、映画を6本観たら1本無料で鑑賞できるんだよ!
というわけでドイツのベストセラー小説の映画化作品『帰ってきたヒトラー』をポイント鑑賞してきました。

Er ist wieder da

帰ってきたヒトラー(2015年 ドイツ)


監督デヴィット・ヴェント
出演者オリヴァー・マスッチ(アドルフ・ヒトラー)
ファビアン・ブッシュ(ファビアン・ザヴァツキ)
クリストフ・マリア・ヘルブスト(クリストフ・ゼンゼンブリンク)
カッチャ・ベリーニ(カッチャ・リーマン)
ジャンルコメディ

あらすじ


1945年に自ら命を絶ったアドルフ・ヒトラー。その彼がなぜか2014年のドイツに突然現れる。
彼の容姿や立ち振る舞い、漂わせるその雰囲気に人々は口を揃えて言った「まるで本物のヒトラーだ!」

そんな彼に目を付けたのは、解雇されたテレビ局への復帰を狙ってネタ探しに奔走するザヴァツキ。
ザヴァツキは「ヒトラーのそっくりさんが現代のドイツを闊歩する」というドキュメンタリーを撮影し、市民と交流するヒトラーの姿をYouTubeへ投稿。
すると瞬く間に大ヒット! トントン拍子で人気テレビ番組の出演も決まり、歴史の独裁者はテレビの大スターとなった。

世間は新たなコメディアンの登場に沸いていたが、完璧すぎるほどにヒトラーな〝そっくりさん〟の傍にいたザヴァツキは呟く——「彼は本物のヒトラーだ・・・!」


以下ネタバレを含む感想になります。

笑えるほど面白いからこそ、怖い!


面白い! けれど単なるコメディとして片付けられない恐ろしさを孕んだ作品でした。
劇中にもある台詞ですがまさに「最初はみんな笑っていた」んです。

誰も私に敬礼をしないとマナー講師に愚痴ったり、クリーニング屋での下着の一悶着だとか。
タイムスリップ直後のヒトラーはジェネレーションギャップに驚愕し、テレビやインターネットの技術を目の前にして感極まって涙を流す始末。
現代社会との食い違う様子がちょっと間抜けで、人間味のあるヒトラーに段々と惹かれます。
己の演説を引用しての会話のオチはとくに最高。
ヒトラーの持つ独裁者としての威圧感と、人としての彼の魅力がバランスよく描写されていて面白かったです。

原作は2012年に発表されたティムール・ヴェルメシュ著の風刺小説『帰ってきたヒトラー(原題:Er ist wieder da)』。
定価が19.33ユーロとヒトラー内閣が成立した史実年代に絡んだ価格設定の原作が、劇中ではヒトラーが執筆した自叙伝という形で登場します。
しかも劇中で大ヒットして映画化する展開とか、いちいち演出が洒落てるな!

帰ってきたヒトラー 上 (河出文庫 ウ 7-1)
ティムール・ヴェルメシュ
河出書房新社
売り上げランキング: 156

帰ってきたヒトラー 下 (河出文庫)
ティムール ヴェルメシュ
河出書房新社
売り上げランキング: 200


ヒトラーが現代を歩く!


この映画の面白いところはフィクションでありながら、ヒトラー扮するオリヴァーが実際にドイツの街中へ繰り出し、市民とコミュニケーションを取るというドキュメンタリー形式が織り込まれているところ。
しかも一連の流れは台本のないアドリブ、つまり市民の本音が映し出されているのです。
ツーショットを撮ったりハグをしたりと意外にもヒトラーに対して友好的な反応が多かったのが印象的です。
もちろんヒトラーに対して困惑を示す人もいますし、遠くから中指を立て嫌悪を露わにする人もいますが、誰しもが目の前に立つ男性を〝ヒトラー〟として受け入れていたように思えました。
ヒトラーと語り合う人々が挙げる移民問題や政治体制への意見のなかには過激な内容も多く、フィクションなのかドキュメンタリーなのか分からなくなることもしばしば。
ヒトラーを免罪符として語るような雰囲気はちょっとした恐怖も感じます。

ヒトラーを取り巻く魅力的なキャラクター達


ヒトラー以外のキャラクターも非常に魅力的で、特に受付嬢にしてヒトラーの秘書役となったクレマイヤーは本作でストーリーのターニングポイントとなります。
個性的なファッションに身を包み、職場のテレビ局の受付にペットのネズミを連れてくるようなキワモノな彼女とヒトラーのやり取りがとにかく微笑ましい。
メールアドレスを取得するくだりで、技術進化に感銘したヒトラーの涙にもらい泣きするクレマイヤーのなんと純粋なことか・・・。

そんな彼女の祖母がユダヤ人だったのを機に、ザヴァツキとヒトラーの関係性に亀裂が生じるという展開に胸が詰まりました。
クレマイヤー嬢がユダヤ人だったことに衝撃を受けつつも「少量なら体が(ユダヤの血を)克服する」というヒトラーの言葉に絶句するザヴァツキ。
この時カメラは言葉を失うザヴァツキにフォーカスを合わせていますが、ぼやけたヒトラーが静かに笑っている表情が微かに見えるんです。
この一連の演出がとても印象的で、恐ろしい場面でもあります。

『ヒトラー〜最期の12日間〜』を観ていると思わず笑ってしまうシーンもありましたね。
特段ストーリー自体に支障があるわけではないけれど、オマージュのせいでシリアスが爆笑シーンになってしまうのも面白いなあと感じました。
ナチス嫌いのあのゼンゼンブリンクが・・・だからこそ余計に笑えるんですよね、いやはや腹筋がつらい。
それにしても忠実すぎてあのシーンだけ何度も見返したいです(笑) あれはズルいよ〜!
ちなみにザヴァツキ役のファビアン・ブッシュは『ヒトラーの最期の12日間』に出演しているそうですね。

ガッカリ! かと思いきや・・・


終盤で「なんでここにきてこんな低クオリティなの!?」とガッカリしたシーンがあったのですが、いやぁ〜まさかそれさえも演出だったとは・・・!
もう心のなかで「ちくしょーっやられたー!」と悔しかった。すっかり物語に引き込まれていました。
ラストに進むにつれてこれが劇中劇の話なのか、それとも現実として描かれているのか境界線が分からなくなる不安感がすごい。

オチも個人的にとても好きです。ちょっとしたホラーでゾクッとしました。
ザヴァツキがヒトラーをモノマネ芸人ではなく〝本物〟と知って周囲へ喚起した末に、精神病棟に収容されてしまう展開は本当に笑えない。
たとえ正論だとしても、マジョリティから離れれば〝異常〟と見なされてしまう恐怖。

初めは皆ヒトラーの前時代的な言動のギャップに笑い、拍手を送っていました。
ですが段々と彼の力強い演説とカリスマ性に魅了され、歓喜する世間の流れに気が付いた時「これは笑えない」と視聴者に思わせます。
だけどそれに気が付いた時にはもう遅く、異を唱えたとしても結果はザヴァツキのようになるのでしょう。
それまでたくさん笑って楽しい作品だと思ったのに、観終わった今ではなんとも言い難い気持ちになりました。

おわりに


コメディ一直線でくるのかと思っていたのですが、想像以上のタブーへの切り込みに観ている方はハラハラ。
単純に〝悪の独裁者〟としてヒトラーを描かなかったのが、本作の魅力でもあると思います。
現代への適応能力の高さと、自分の力として上手くコントロールする彼の冷静さがストーリーを面白くさせているなあと感じました。
すこし情緒不安定だったり、人間として欠けている部分もしっかり描いたことで、たしかに〝ヒトラー〟がそこに存在していました。
こんな映画をドイツが作ったっていうのがまず凄い! その点にまず大きな意味があると感じます。

本作の邦画ポスターやパンフレットのデザインも、原書の良さを崩していなくてお気に入りです。
キャッチコピーもなかなか良かったなぁと久し振りに思いました。

コメディとシリアスの絶妙なバランスが大変素晴らしい映画でした!
個人的満足度としては2016年上半期でのトップにランクインするかも。
本作は原作から物語を脚色・発展させた内容らしいので、今度原作も読んでみようと思います。

ヒトラー ~最期の12日間~ Blu-ray
TCエンタテインメント (2012-09-05)
売り上げランキング: 943

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitter で

You Might Also Like

*